【男の生き方、人生の楽しみ方】第1回「佐藤秀光さん(ミュージシャン、バイクショップオーナー)」
今、日本がおかれた状況は厳しい。先行きが見えない時代、社会はますます保守的になり、萎縮していないだろうか? だが、厳しい時こそチャレンジし、前向きに動いて突破口を開きたい。そこで、「男の再始動」がテーマのDANTESでは、ミドル世代が自分らしく、自分の可能性を信じて生きていくための新連載をスタートする。(大澤尚宏)
「クールス」とハーレー、そしてトライク
連載1回目はミュージシャンであり、バイクショップオーナーでもある佐藤秀光さんにご登場いただく。
佐藤さんは1951年生まれの69歳。言わずと知れた日本を代表するロックンロールバンド「クールス」のリーダーでありドラマー。千葉県匝瑳市にライブハウス「☆HUNGRY☆」を建設し、ソロとしても「Hidemitsu with The HUNGRY」というバンドを結成して活躍している。
デビュー当時のクールス、前列左から2人目が佐藤さん、隣は舘ひろしさん
ミドル世代ならご存じの方もいると思うが、佐藤さんは中学生の頃からバイクに魅せられ、1974年に舘ひろしさんや岩城滉一さんらとバイクチーム「クールス」を東京・原宿で結成、その後、ロックンロールバンドとしてデビューを果たす。今年でバンド結成45周年という大御所だ。
そんな佐藤さんのもう一つの顔はハーレー&トライクのカスタムビルダー。
江東区・亀戸で「CHOPPER」というショップをオーナー経営するかたわら、国内最大級のハーレーのツーリングイベント「WANTED BIKER TOURING」を主催している。手や足にハンディを負った人に向けたハーレーの「トライク」(バイクを改造して3輪自動車にしたもの)もすでに20台以上製作したという。
そんな佐藤さんのショップを8月某日、訪ねた。
亀戸駅から京葉道路を船橋方面に歩いて約10分、ショップに着き、大きな鉄の扉を開くと、そこには製作途中のハーレーのトライクと佐藤さんのマシーンが…。
製作途中のハーレーが所狭しと並ぶ店内での取材となった
これまで画像や動画でしか見たことはなかったが、実物は想像以上にかっこいい。トライクはバイクメーカーもラインアップしているが、どこか野暮ったい。それに対して、佐藤さんの作るトライクはかっこよさが全然違う。
一方、ショップのデスク横にはギターとアンプ、そして、オリジナルのつなぎやジャンパーが所狭しと並んでいる。趣味と実益を兼ねた「男の隠れ家」のような雰囲気の中、佐藤さんは語り始めた。
佐藤さんの著書『ハングリー・ゴッド』
お金がなかったことに感謝
佐藤さんの原点は中学生時代にある。
当時のアメリカ文化に憧れた。アメリカのファッション、音楽、そしてクルマ、何もかがカッコよかった。
バイクに夢中になったが、音楽にも傾倒する。当時流行していたベンチャーズなどのエレキバンドにはまり、ドラムセットを買った。だが、まだ中学生でお金が無い。そこで佐藤さんはローンを組んだ。
「俺らが中学生のころはね、ローンと言えば丸井のローンだよ」と笑いながら、新聞配達を8年もやった、と教えてくれた。
「新聞配達はね、当時は1年中休みがなくてね、正月の1月2日だけだったんだよ、お休みは。俺は親父が交通機動隊員でね。裕福じゃなかったんだよ。でも、そんな親父に感謝しているんだ。お金がなかったから自分1人で生きていける力を親からもらったんだ。感謝しているよ」
いきなり先制パンチを食らったような衝撃を受けた。筆者(大澤)自身の甘さを見抜かれたような気がしたからだ。
今のような先行きの見えない時代。終身雇用も、年功序列もとっくに過去のものとなり、ミドル世代にとっては辛い時代だ。「人生100年時代? どうするんだよ、老後のお金2000万円どころじゃないよな」みたいな会話が日常化している中で、「親が資産家だったらな…」みたいなずるい妄想をしてしまうこともある筆者だが、佐藤さんの一言には数々の経験を経た男にしか発せない「本物」を感じたのだ。
そもそもこのインタビュー特集は、日本がかつてのような元気を失い、萎縮する中、働き盛りのミドル世代に元気が感じられないことを憂い、読者に「自分らしく再起動しようぜ!」いうメッセージを伝えたくて企画したもの。「男の再起動」をテーマにしているのだが、佐藤さんは再起動どころか、人生ずっとフルスロットルで駆け抜けてきたのだ。
自分のアドレナリンは自分で作れ
それにしても、佐藤さんはパワフルだ。そしてスーパーポジティブである。
若い頃、肉体労働をしていた時も「お金払ってスポーツジムに行くよりも、お金もらって身体を鍛えられるんだから一石二鳥だと思い」、あえて「楽」をしなかったという。根っからのポジティブなのだ。
「これまでの人生、三途の川を3回見た」という凄い話も、さらっと言ってのける。20代のはじめにデビューし、絶大な人気を誇ったクールスを率いてきたのだ。我々には想像もできないような苦労があったことは想像に難くない。
佐藤さんは続ける。
「いろいろあったけど48歳で目覚めて、50歳からがスタート。死ぬことを考えたら多少の失敗なんて“かすり傷”。50歳からが勝負だよ」
多くの失敗や苦労をしてきたからこそ、「人が喜ぶこと」をしたいと思ってひたすら実践してきた。そして「今は本当に最高の時間だと」語る。
「自分を信じてやるか、やらないかだろ。決めるのは自分だよ。『もう駄目だ』と思ったことは何度もある。でも、最終的には『気の力』。失敗を成功の素につなげられるかだよ」
そのうえで佐藤さんは、ネズミの話をしてくれた。
「常に餌がもらえるネズミと、決まった時間にしか餌をもらえないネズミはハングリーさが違うんだよ、決まった時間にしか餌をもらえないネズミは時間がくるとアドレナリンが発散してガ―ッと動く(餌に食らいつく)。そう、自分のアドレナリンは自分で作らなきゃだめってことだよ」
なるほど。ふと、このネズミの話と今の風潮を重ねてしまった。日本のミドル世代はどこか元気がないと感じる今日この頃。それは自分で自分のアドレナリンを作れない人間になってしまったからなのか、それともされてしまったのか?
いずれにしても、アドレナリンが足りないから、自らリスクをとってチャレンジをしない。上司に意見したり、自分が信じることを主張せず、何事も起こさず、穏やかに過ごしたいと自分で限界を作ってはいないだろうか?
DANTES世代へのメッセージ
最後に、佐藤さんにDANTES読者へのメッセージをお願いした。
「これまで俺は自分を信じ、常に『これでいいのか?』と自問自答しながら走ってきた。皆さんも50代にもなれば、これまでに蓄えてきた『信用』ってあるでしょう? その信用を利用していない人が多いと思うよ、今、勝負する人が少ないよ。今のような時代だからこそ、自らが作り上げてきた『信用』を活用してチャレンジしたらいいんじゃないかな、自分に納得できることをしたか、しないかが大事なことなんだよ」
筆者は以前、多くの高齢者が亡くなる間際に後悔するのは「チャレンジしなかったこと」だという話を聞いたことがある。佐藤さんの言葉を聞きながらそんなことを思い出した。
何もしないで平穏に過ごすよりも、何かにチャレンジして、たとえ嵐に遭遇しても、人生をドラマチックに生きる道を選んだ方が、きっと最期に「ああ、自分の人生、思いっきり走ってきたな」と後悔しないことになるのだろう。
インタビューを終えて
今回の取材は、2時間の予定が4時間にもなってしまった。
佐藤さんはギターを片手に自身の曲を歌ってくれたり、手品を披露してくれたりと、まるで佐藤さんのワンマンライブに招待されたかのような「場」になってしまったからだ。
そんなアットホームな雰囲気もかもし出す佐藤さんは今、お孫さんまで交えた3世代バンドを組んでいるという。
クールスのリーダーが孫とバンド? と驚いたが、佐藤さんは型にはまらず、いくつになっても、やろうと思ったことは実行する。根っからのエンターテイナーだからこそできることなのだろう。
ピンチをチャンスに変え、自らを信じてチャレンジし続け、「今が最高にHappyだ」と言える境地に達した佐藤さんだが、まだまだ止まらない。これからも「人生の最終コーナーにチャージをかけろ」と風を切り、アクセルを緩めずに走り続けるのだろう。
誰でも思い立てば、佐藤さんのように自分で自分にゴングを鳴らし、チャレンジできるはずだ。どうチャレンジするかは人それぞれだが、DANTESはそんな「男の再始動」を応援したい。
目の前にあるチャンスにチャレンジをしようぜ、
ガソリンがある限り、おんぼろバイクで。
目の前にあるチャンスにチャレンジをしようぜ、
ブレーキをかけずに型にはまらないで・・・
「ガソリンがある限り」Hidemitsu with The HUNGRY
どう生きても、人生は1度きりだ。最終コーナーで後悔しないでほしい。
この記事が、自分自身に納得ができる生き方を考えるきっかけになってくれればうれしい限りである。
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撮影 ★CHOPPER☆F-Pro HAGI★
★CHOPPER☆COOLS &佐藤秀光 公式Web HP (https://www.chopper-cools.com)
★CHOPPER☆COOLS &佐藤秀光 公式 Twitter (https://mobile.twitter.com/chopper_cools)
★三世代家族バンド THE SUGAR 公式Web HP (https://thesugar-310.jimdofree.com)
この記事のライター
大澤尚宏
リクルートを経て広告プロデューサーとして活動。1995年にバリアフリーライフ情報誌を創刊。2008年にミドル&シニア世代を対象にした「オヤノコトエキスポ」を開催し、2009年に株式会社オヤノコトネット(https://www.oyanokoto.net/)を設立。夕刊フジで毎週木曜日にコラム「人生100年時代 これから、どうする」を連載中。2020年から「日本を元気にする」をテーマに執筆やイベントコーディネート等も始めている。
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