【医師監修】ランニングはテストステロンを増やす?減らす?「ほどほどに」走るのが肝心

ランニングはテストステロンを増やす?減らす?「ほどほどに」走るのが肝心

「仕事帰りに疲れるようになったのは、加齢のせいか、それとも運動不足か」。ぼんやり考えながら家路につくサラリーマンの隣を、ナイトランニングを楽しむ愛好者が軽快に駆け抜けていく。そんな市民ランナーが街にはあふれています。

運動不足の解消や健康維持のため、ランニングを始めようという人のなかには、テストステロンのアップが目的の人もいるかもしれません。テストステロンにとっての大敵は運動不足やストレスです。ランニングで心地よい汗を流し、気分も晴れれば、テストステロンも分泌されやすくなりそうです。

しかし、ランニングは良いことばかりではありません。走り方によっては、テストステロンが減少してしまう可能性もあります。

この記事では「注意点も含め、ランニングとテストステロンの関係」について、「医療法人社団三橋医院 ディオクリニック」の藤井 崇博 先生が注意点なども合わせて解説します。

医療法人社団三橋医院 ディオクリニック「藤井 崇博 医師」

テストステロンとは

テストステロンは男性ホルモンの一種で、精巣や前立腺など男性生殖器の発達に欠かせないホルモンです。がっちりした骨格や筋肉質な体など男らしい体を作るのに役立ちます。コレステロールを原料に、体内のさまざまな過程を経て、テストステロンが合成されます。

分泌が増えるのが思春期で、性毛や声変わりなどの第二次性徴の発現を促します。テストステロンの分泌量は脳によってコントロールされており、10代後半から20代にかけて分泌がピークになり、その後は少しずつ減少していきます。

そのため、加齢やストレスによるテストステロン不足を防ぐには、バランスの良い食事を取ることが大切です。そのほかにも適度な運動や規則正しい生活により、テストステロンの分泌を維持できます。テストステロンについて、さらに詳しく知りたい方は【さまざまな効果があるテストステロン(男性ホルモン)とは】をご覧ください。

運動とテストステロンの関係とは?

運動はさまざまなプラス効果を与えてくれますが、テストステロンにとってはどうなのでしょうか。

筋肉への刺激でテストステロンが分泌

運動はテストステロンにとっても欠かせないものです。筋肉が刺激されることでもテストステロンは分泌されます。

健康な高齢男性が自転車エルゴメーターで有酸素運動を行った場合、血液中のテストステロン値が通常時に比べ40%近く上昇したという研究結果もあります。

自転車エルゴメーターは、ペダルの重さを定量的に変えられる固定式自転車で、運動や精神的興奮による心電図変化を調べるためにも使われます。適切な有酸素運動ができるため、リハビリ機器としても活用されています。

運動→テストステロン→筋肉のサイクル

テストステロンは、分泌されただけ増えるというわけではありません。テストステロンの多くは筋肉細胞の受容体と結び付き、筋肉を増やすために消費されるからです。

しかし、筋肉が増えることによって、運動した時に分泌されるテストステロン量も増えます。それが筋肉量のさらなる増加につながっていきます。適度な運動を維持することがテストステロン不足を防ぐというのは、こうした仕組みがあるからです。

ランニングでテストステロンを増やす

それでは、数ある運動種目の中でも、ランニングやジョギングはテストステロンの増産に向いているのでしょうか。

テストステロンが増えるのは45分まで

有酸素運動はテストステロンを増加させますが、運動を始めてから45分でその効果が最大になり、その後は減少していくといわれています。

特別な用具や施設も必要なく、45分間続けられる有酸素運動というと、ありそうでないものかもしれません。そのため、ランニングはテストステロンを増やすために適した有酸素運動と考えられます。

脂肪燃焼効果にも期待

有酸素運動によるメリットの中で、最も知られているのが脂肪燃焼効果です。テストステロンが少なくなり、筋肉量が減ると脂肪が増えてしまいます。肥満とテストステロンレベルの間には負の相関関係があることも示されています。

そのため、脂肪を燃焼させてテストステロンが増えやすい環境を作り出すことが大切です。脂肪燃焼効果が高まるのは、有酸素運動を開始してから20分以降です。ランニングの時間を45分程度とすれば、脂肪燃焼とテストステロン増加のダブルの効果が期待できます。

ランニングの魅力とメリット

ランニングの魅力とメリット

ランニングのメリットは、テストステロン増加だけに限ったことではありません。ランニングブームと言われて久しいですが、多くの愛好者を引きつける魅力とメリットとはどんなものでしょうか。

シューズと勇気があれば始められる

ランニングによって得られるものには、ダイエット効果や体力向上、ストレス解消や集中力アップなど数多くあります。また、風を切る爽快さ、自分に自信がつく、といったことも魅力です。

そのなかでも最大の特長は、シューズ一足と一歩踏み出す勇気さえあれば誰でもチャレンジできることはないでしょうか。

何のために走る?

ランニングの間口は広く、走る目的はさまざまです。ハードな方から挙げると、まずはマラソン大会への出場や自己記録の短縮を目指す「アスリート」タイプです。他の競技に取り組む人が基礎体力固めとして走ることもあります。

続いては、走ることに一定の達成感を求める「自己研鑽」型。そして最も一般的なのが、ランニングによって健康管理や体力維持を目指す人です。テストステロンの増加に期待する人も、ここに分類されるでしょう。

走りすぎには注意!テストステロンを減らすリスクも

手軽に始められて、魅力あふれるランニングの世界。しかし、テストステロンのことを考えた場合、十分に注意しておかなければいけないことがあります。それは「走りすぎ」です。

フルマラソン後にはテストステロンが激減

短い距離から始めたランニングも、続けるうちに距離が伸び、タイムも速くなることで自信がついていくものです。住んでいる地域で行われている市民マラソンに参加してみようと考える人も出てくるでしょう。

しかし、マラソンを完走するほどの激しい運動をすると、テストステロン値は激減します。テストステロンは運動によって分泌されますが、疲労した筋肉や血管を修復するためにも使われます。長時間にわたって強い負荷をかけ続けるフルマラソンの場合、テストステロンの合成よりも消費の方が圧倒的に増えてしまいます。

月単位のリカバリー期間が必要

減ったテストステロンが元のレベルに回復するためには、月単位の期間が必要になります。十分に回復しないうちに再びフルマラソンにチャレンジすると、さらにテストステロンが減ってしまいます。

そうなると、肉体的・精神的な不調が現れるリスクも考えられます。市民マラソンは今や全国各地で行われているので、毎月のようにエントリーすることも可能です。しかし、一度マラソンを完走したら、2~3カ月の間隔をあけるようにしましょう。

過度な走り込みにも注意

ランニングが本格的になり、マラソンに挑戦するレベルにもなれば、走り込む距離も自然と増えます。実は、そこにもテストステロンを減らしてしまう要因が潜んでいます。

市民ランナーを対象に、1カ月に走る距離とテストステロン値について調べた研究論文によると、テストステロン値が高いのは月間120~150キロあたりです。しかし、200キロを超えると一気に低下することがわかっており、過度な走り込みには十分な注意が必要です。

テストステロンのために、おすすめのランニング法

それでは、テストステロン値を高めるには、どのような形でランニングを続けていくのがよいのでしょうか。

ウオーキングとランニングを併用

テストステロンを高めるためには、まずはランニングを続けることが肝心です。走ることがきつく感じるようなら、まずはウオーキングから始めてみるのもよいでしょう。慣れてきたら「1分走って5分歩く」というように、走る時間を混ぜていくと、自然な形でランニングに入っていけます。

ウォーキングがテストステロンに与える影響については【テストステロンが増えるウォーキング術-外出不足の今こそ歩こう】に詳しくまとめております。ウォーキングから始められる方は、ぜひご覧ください。

週ごとの目標設定なら達成できる

1日に走る距離をきっちり決めてしまうと、精神的に続かなくなってしまうこともあります。そのような場合は、週ごとの目標距離を設定するのもおすすめです。予定を調節しやすくなり、ランニングが可能な日数で割った距離を走ることで負担も軽くなります。

45分以内なら月間距離も抑えられる

本格派のランナーともなると、先ほど紹介した月200キロという数字に到達することもあります。週5日走った場合、一度に走る距離は10キロ程度になります。

そこで思い浮かべてほしいのが、有酸素運動によるテストステロンの増加は45分で最大になるということです。その程度のランニングを続けていけば、適正な月間距離も守っていけます。足りないと感じるようであれば、スクワットなどの自重トレーニングや軽めの筋トレを組み合わせると、テストステロン分泌のためには効果的です。

まとめ

ランニングによって味わえる経験は魅力的です。だからこそ、空前のブームが続いているといえます。しかし、テストステロンを減らしてしまうリスクが潜んでいることまでは、あまり知られていないかもしれません。

適度な時間、距離を守りながらテストステロンを増やし、ランニングをエンジョイしてください。

  • 参考文献
    ・Exercise increases serum testosterone and sex hormone-binding globulin levels in older men https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8769347/
    ・Secondary male hypogonadism: a prevalent but overlooked comorbidity of obesity https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6219298/
    ・日本Men'sHealth医学会 https://www.mens-health.jp/
    ・大東製薬工業 https://daito-p.co.jp/
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この記事の監修者

藤井 崇博

藤井 崇博

医学博士、循環器内科専門医であ医療法人三橋医院理事長の藤井崇博と申します。 専門領域は循環器内科で心臓領域を専門としており、研修医から2021年まで約10年間大学病院、関連病院で臨床、研究、教育に従事させて頂き、循環器内科専門医、循環器内科領域での医学博士号を取得しております。現在も循環器疾患を含め外来での診療は継続させて頂いております。 循環器内科医として様々な患者さんの診察に日々従事する中で、何よりも大事なのは未病、医学的には一次予防と呼ばれる未然に病気になるのを予防しようとする意識が大事だと常々思います。最近では対面でお話出来ないことも多いので、SNSやその他コラムなどで健康に有益な情報の発信に力を入れております。


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