コロナを乗り切る「テストステロン補充療法」徹底解説

テストステロン2 新型コロナ 品川駅の出勤風景

長引く自粛生活で、男性の“元気の源”といわれるホルモン「テストステロン」は低下傾向にあります。テストステロンには、【テストステロン(男性ホルモン)の働きと役割とは】でも紹介していますが、免疫力を高めてウイルス感染を予防する働きもあるとされるので、この維持はきわめて重要です。そこで注目されているのが「テストステロン補充療法」。その検査方法や治療内容、費用や効果などについて一挙ご紹介します。

“男の元気の源”低下とコロナ感染死亡リスク

新型コロナウイルス感染者の死亡率は80代以上が20.1%、50代以下の年代は1%未満と、高齢者ほど重症化し、死亡する危険度が高い(2020年6月10日時点)。また、20代の相撲力士がコロナで亡くなったのは記憶に新しいが、彼は糖尿病の持病があり、世界保健機関の調査では糖尿病患者のコロナの致死率は9.2%と高率である。

テストステロン1「新型コロナ 表さし」

「加齢、糖尿病、さらに抗がん剤治療などでのテストステロン低下は、コロナ感染での死亡リスクと無関係ではないと注目しています。テストステロンは、加齢やストレスで壊れた細胞のたんぱく質を修復し、赤血球、白血球、筋力を増やし、免疫力を高め、ウイルス感染を予防し、重症化を食い止める働きがあるとされています」

そう話すのは、男性医学研究60年超、日本メンズヘルス医学会名誉理事長の熊本悦明医師。テストステロン1熊本悦明医師

90歳の今もクリニックの更年期外来でテストステロン補充療法をメインに治療を行う。もちろん自らの元気の秘訣も70歳から継続しているテストステロン補充だ。

テストステロンとは何か? その大切さとは?

さまざまな効果があるテストステロン(男性ホルモン)とは】に詳しくまとめていますが、そもそもテストステロンとは、男性らしさをつくりあげる主役の元気ホルモン。睾丸から分泌され、男性器や男性らしい脳の形成に寄与し、思春期には精通や声変わりを後押しする。しかし、加齢、糖尿病やがんなどの疾患、加えて抗がん治療やストレスによって、テストステロン減少が起こると体調が乱れてくる。

「40歳代後半になりテストステロンが減り始めると、いわゆる『男性更年期障害』と呼ばれる症状が出てきます。全身の倦怠感、性欲低下、気力の低下など、それぞれの症状が負の連鎖を起こし、体力が落ちてくることは、さまざまな研究で明らかになっています。隠れ更年期は中高年男性の6人に1人という報告もありますから、他人ごとではありません。でも、安心してください。不足したら補充すればいいのです」

米国のビジネスマンは普通に「テストステロン補充療法」を受けている

アメリカではビジネスマンを中心に、多くの人が行っているテストステロン補充療法だが、まだ日本ではあまりなじみがない。

「今の時代、目が悪くなったらメガネをかけるし、耳が遠くなったら補聴器を使います。そこに疑問や抵抗を覚える人はいないはずです。テストステロン補充も同じこと」

とはいえ、新しい治療を受ける場合は、メリットよりデメリットに目が行きがち。特に、テストステロン補充では、前立腺がん発症や前立腺肥大の悪化は気になるポイントだろう。だが、熊本医師は「ほとんど問題ありません」と話す。

以下、「どんな検査を受けるのか」「治療内容や費用は」「副作用はないのか」「本当に効果があるのか」といった疑問や不安を解説していく。また、熊本医師の外来から、人生100年時代におけるテストステロン補充の自由診療の現場もリポートする。

テストステロン減少は目に見えないから気づきにくい

睾丸から分泌されるテストステロンは、筋肉や骨の発達を促進し、男らしさの象徴を創り出すホルモンであるだけでなく、男女問わず人間の元気の源だ。

テストステロンが減ってくると、いわゆる「男性更年期障害」と呼ばれる症状が出てくるというが、ホルモンは目には見えない。「近ごろパワーが落ちた」「最近、何となくやる気が出ない」と、体力や気力の衰えを感じたとしても、漠然と「年のせい」と考えて、大事なテストステロンが減っているとは思わない人がほとんどだろう。

朝勃ちに気づかなくなったら「数値低下」のサイン

テストステロンが減って、医療機関に足を運ぶべきサインはあるのか。熊本医師は次のように言う。

「女性には女性ホルモンが激減する閉経があります。実は同じサインが男性にもあるのです。それは、男の生理である『朝勃ち=モーニングエレクション』の喪失。最近、気がつかなくなっているなら要注意。スグに医療機関へ足を運び、テストステロン値を測ってください。実は、体内で一番細いのはペニスの血管で、テストステロン低下による血管硬化は、細いほうから始まります。放置しておけば、より太い血管の心臓や脳で、心筋梗塞、脳梗塞が起き、突然死につながる恐れがあるので、軽視できません」

中高年を襲う男性更年期障害チェックリストと高める術】ページの「26点以下なら正常!LOH症候群チェック」で、テストステロン(男性ホルモン)の低下度合いをチェックできる「LOH症候群チェックシート(AMS質問票)」があるので、ご自身のテストステロンの状況を把握してみましょう。

なお、LOH症候群とはテストステロンという男性ホルモンが減ることで起きる様々な症状の総称であり、LOH症候群の度合を知ることで、テストステロンの補充療法が必要なのかもわかってきます。

17の質問に回答した数字を合計し、「26点以下」なら正常、「27~36点」なら軽度、「37~49点」なら中等度のLOH症候群となり、「50点以上」の場合は至急治療が必要と判断ができます。
正直に回答してみましょう。


いざ、男性更年期外来へ 何が待っているのか?

では、熊本医師の外来での実際の治療内容はどんなものなのか?

「私の外来では、まず健康度チェックから開始します。質問紙への記入と、時間をかけて患者さんの体調、やる気、生活行動活性、睡眠などについて詳しく問診。さらに多様な検査を行います。残念ながら、現在の保険診療では認められていない検査も多く、初回で2万〜3万円と費用がかさみます。しかし、元気を取り戻せるなら、お得だと思います」

メンズヘルスクリニック外来検査の流れ

熊本医師の外来では、次のような流れでテストステロンの検査が行われる。

検査内容
  • 1.質問紙検査(日常生活のさまざまな問題点や排尿、性機能などについて答える)
  • 2.血液検査(前立腺及び糖尿病関連の数値など)
  • 3.生化学検査(陰茎や睾丸のサイズ、前立腺の状態を確認)
  • 4.各種ホルモン検査(遊離テストステロン、DHEA=副腎からの弱男性ホルモン、IGF―1=成長ホルモン)、性腺刺激ホルモンLH・FSH、PSA、女性ホルモンなど)
  • 5.脈波速度検査、脈波速度試験、PWV(血管の動脈硬化度)検査
  • 6.血圧・骨密度検査

これらの結果しだいで、テストステロン補充療法が必要かどうかを判断される。

補充療法開始の判定値と費用は?

テストステロンは20代をピークに徐々に減少しはじめる。20代のときの値と比べると、40代では約8割、50代では約6割、60代では約5割にも減少する。検査の結果、年齢も考慮にいれた判定が必要だが、目安はフリーテストステロン10pg/ml前後に下降していて、更年期があれば治療対象になる。

「多くの場合は2週間に1度、注射によってテストステロン補充療法と日常生活に関するカウンセリングを行います。テストステロンの下がり方が極端な場合は、毎週行うなど、ペースを上げることもありますが、たくさん打てばいいというものではありません。私たち医師は、その人の状態を総合的に見ながら適切な量を判断します」

こちらも費用は1回あたり1万〜2万円程度。往々にして日本人は、医療にお金をかけたがらない傾向がある。しかし、お酒を飲みに行ったりおいしいものを食べたりすることを考えたら、自分の健康を守るための数万円は、けっして高くはないと言えるのではないか。

テストステロン補充療法は保険も一部適用されているが…

「長年、男性医学の重要性を訴えてきた私たちの声に応えて、少し前からようやく、男性ホルモン値の検査と補充療法の一部に健康保険が適用されることになりました」

長年、“男の元気”の道を切り拓いてきた熊本医師は、こう続ける。

「適用された場合は、検査も補充の注射も5000円程度でしょうか。ただし、はっきりした自覚症状がないと適用されなかったり、補充療法の回数や期間が決められていたりなど、何かと制限があります。国が男性ホルモンの重要性にお墨付きを与えてくれたのはうれしいことですが、予防的な意味での検査にはなかなか適用されないのが歯がゆいところ」

自由診療での料金は?

検査で更年期障害と診断され治療が必要と診断されたら、おおむね250ミリグラムのテストステロンを2〜4週に1度のペースで、お尻や筋肉に注射。費用は1回数千円程度。軽い更年期障害であれば2〜3カ月で回復する。

動向をチェックし、高齢で症状が重い場合には、自由診療に切り替え、毎週投与が必要になるケースも少なくない。

場合によってはバイアグラやシアリスなど、血管を拡張し血流を良くするPDE5抑制剤を処方する。睡眠の中途覚醒改善が得られないときは、メラトニン(副交感神経刺激)やレスタミン・ヒスタミン(交感神経抑制)を併用。

睡眠剤は極力避けているが、短時間作用のマイスリーを処方するなど、長年の経験から、患者一人ひとりの症状に合わせカスタマイズした治療を行う。

熊本医師は「健康長寿医学には、患者さんの話をしっかり聞きながらのカウンセリングが必須です」と強調する。

前立腺癌など副作用の心配はほとんど無し

やはり気になるのは副作用だろう。特に懸念される疾病の一つが男性ホルモンを“餌”にする前立腺がんだ。熊本氏は腫瘍マーカーであるPSAを細かくチェックし、年齢の基準値を超えないようテストステロン投与量をコントロールしている。

「男性ホルモンには一般に言われているような副作用はほとんどありません。よく前立腺がんなどになると心配される方もいますが、その可能性は極めて低いので、そういう時には私はこう聞きます。『あなたは車や飛行機に乗りますか』。すると『乗りますよ』と。『でも、新聞やテレビで毎日のように事故が報道されていますけど』『安全運転なら大丈夫です!』。

それとテストステロン補充も同じ。医者が安全運転しながら問題点をチェックして治療するので、メリットを使わないで、ただ心配するのは無意味です。むしろテストステロン値の低い方が、前立腺癌になった場合の悪性度が高く、転移しやすいことは報告されています」

どんな治療もリスクはゼロではない。最終的には自分が人生で何を優先するかによって治療を選択するしかない。

テストステロン補充療法の実例

テストステロン補充療法の実例を3名ご紹介しよう。

テストステロン補充療法で83歳でも「元気すぎる」活躍ぶり-Sさん実例

Sさんは、現在83歳の男性。熊本医師の外来に通って6年目。都内在住でマーケティング会社の相談役を務める。

「クラス会では、お前は元気過ぎると驚かれます。テストステロン補充でやる気と好奇心、そして女性への関心も蘇りました。いくつになっても男には、それが生命力の源です」と、治療効果を語るSさん。

熊本医師が治療にあたって、「健康というアバウトなものを評価する指標に欠かせない」と愛用するのは、科学的で信頼性・妥当性を持つ尺度として世界で活用されているSF-36(MOS Short-Form 36-Item Health. Survey)という健康調査方法の日本語版である。

身体機能、日常役割機能、体の痛み、日常生活機能、メンタルなどの質問解答で健康度を判断する。その解答を独自でコンピューターで図式化し、患者と健康状態と治療効果を共有している。

男性更年期の意欲低下から「健康」回復-Kさん実例

Kさん(53歳・男性)の場合は―。

「Kさんは、はじめは心身共に不調で、ある内科医を訪れたものの、『運動が足りないのでしょう、運動しなさい』と返された。本人いわく『運動する意欲が起きないから医者を訪ねたのに…』と、私のところに駆け込んできたのです」

診察した熊本医師が続ける。

「検査の数値の高低や、判定の陽性・陰性といったデータのみで、患者さんの顔を見ないで『あなたは病気ではないので健康です』と診断されていました。細かな検査でやはり男性更年期障害とわかり、テストステロン補充を始めました。すると、図の円が大きくなり、体調が回復し、健康度が満点に近づいていきました」

テストステロン5 Kさんの変化グラフ

やる気を取り戻したKさんはジムに通い、筋肉質に変身した写真を送ってきた。

テストステロン5 体の変化

糖尿病改善の実例も-Yさん実例

一方、Yさん(59歳・男性)の場合は糖尿病の改善も見られたという。

「糖尿病は男性に多く、女性の3倍近い患者がいます。その糖尿病の原因は、食べ過ぎ、運動不足と言われていますが、実はその症例のほとんどにテストステロン低下が見られるのは、あまり知られていません」(熊本医師)

糖尿病と疑われる場合は、ヘモグロビンA1cの上昇がチェックされる。血管の中でヘモグロビンがブドウ糖と結合したHA1cの正常値は5・0以下で、それを超えてくると高血糖になり、合併症を引き起こすリスクが出てくる。

糖尿病で元気がないと訪れたYさんの、遊離テストステロンを調べてみると、年齢の中央値と比較するとかなりの低下が分かった。まずは250㎎のテストステロンを2週間に1度のペースで投与したところ、テストステロン値は大学生なみのレベルまで上昇し、糖尿病の指標であるHA1cが8.2から6.0にまで下がり、元気がみるみる回復した。

「テストステロン補充療法の頻度と補充量は、一人一人の患者にとって安全かつ効果的を、医師の知識と経験で慎重に判断しています。わずかなリスクを恐れて、テストステロン補充に二の足を踏むのは残念なこと。不安な方は、ぜひ一度私の外来へお越しください」

90歳の今も週に1度自らテストステロン補充を続ける熊本医師からのメッセージだ。

テストステロン4 熊本悦明医師カジュアル

熊本悦明(くまもと・よしあき)

1929年、東京生まれ。札幌医大名誉教授、みらいメディカルクリニック  (東京都文京区)名誉院長。東京大医学部卒業後、同大講師(泌尿器科学講座)を経て、米カリフォルニア大ロサンゼルス校へ留学。68年に札幌医大医学部秘尿器科学講座主任教授に就任し、日本メンズヘルス医学会、日本性感染症学会を創立。

2019年、日本泌尿器科学会医療賞、日本抗加齢医学会抗加齢医学功労賞を受賞。近著『「男性医学の父」が教える 最強の体調管理 テストステロンがすべてを解決する!』(ダイヤモンド社)など著書多数。

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