「男性医学の父」熊本悦明先生を悼む

2022/05/24

熊本先生

札幌医科大学名誉教授で日本メンズヘルス医学会ファウンダー・名誉理事長の熊本悦明氏が5月4日、死去した。92歳だった。東京大学医学部卒の熊本氏は39歳で札幌医科大学泌尿器科学講座教授に就任し、それまで未知だった「男性医学」の分野を開拓。テストステロンについて数多くの研究や著書を発表し、「男性医学の父」と呼ばれた。熊本氏の後を継いでメンズヘルス医学会の理事長を務める順天堂大学の堀江重郎教授が熊本氏の偉大な功績を振り返った。

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医療は永らく男性を基準にしてきた。とはいうものの、女性は産み育てる産科があり、また閉経に伴う更年期があることから「女性医療」は進化した。しかし、男性にも男性に特化した医療があるはずと70年前に気づいた先達が、熊本悦明先生であった。

世界の医学者の中で「男性医学の父」と呼ばれた先駆者が92年の生涯を終えた。それまでは隠語であった勃起という言葉が医学用語になりNHKでも放送される言葉になった。勃起は男性の重要な生理現象であり、男性は寝ている夜中に実は気づかないまま3〜4回は勃起する。この夜間勃起現象を見出した熊本先生は「男の夜の素振り」と称した。

素振りをしなくなる時に男は衰える。その理由が男性ホルモンであるテストステロンであることを発見し、テストステロンの値が男の老化を示すことを明らかにした。加齢により活動量は減るし、筋肉も減る。これは年を取れば当たり前だと考えられていたが、いやいやそうではなく、テストステロンが減るから起きるということをネズミで証明し、そしてヒトでも証明した。

では、老化に打ち克つにはどうしたらよいのか? それは決して不可能でなく、また難しくもない。男性ホルモンであるテストステロンを補充すれば「当たり前」の老化を防ぐことができる、つまり男のアンチエイジングになるのだ。

ここでは、熊本先生の著書『最強の体調管理〜テストステロンがすべてを解決する!』(ダイヤモンド社)を紹介した夕刊フジの記事を改めて紹介しよう。

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《40代、50代の男性といえば、社会的に大きな責任を持ち、身体面では気力が充実、最も充実した時期のはず。ところが周囲を見渡せば、「疲れが取れない」「やる気が出ない」と悩むばかりか、異性にさえ興味が湧かない…》

《男性におけるテストステロンこそがあらゆる元気の源、テストステロンの減少を防ぐことで、「元気のなさ」はもちろん、ED(勃起不全)、睡眠障害、内臓肥満、糖尿病、物忘れなど、従来「年のせい」として片付けられてきた症状や疾患の予防や改善につながる》

《睾丸から分泌されるテストステロンは、20代をピークに減少に転じ、ストレスを受けるとさらに減少の度合いは大きくなる。自分のテストステロン値を確認したいなら、全国で増えてきている「メンズヘルス外来」や「男性更年期外来」を受診しよう。血液検査でテストステロンの値を見て、「低い」と判断されたらテストステロン補充療法も用意されている。目が悪ければメガネをかけ、歯が抜ければ入れ歯やインプラントを利用する時代、「ホルモンが減少した男性」がテストステロンを補充するのは当たり前》

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熊本先生の人生は、まさに男性を護ってきた生涯だった。その功績に心から感謝したい。

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この記事の監修者

堀江 重郎

堀江 重郎

1960年生まれ。東京大学医学部卒業。日米で医師免許を取得。国立がんセンター中央病院、杏林大学講師を経て帝京大学医学部主任教授に就任し、日本初の男性更年期外来を開設。2012年に順天堂大学医学部教授に就任。日本抗加齢医学会理事、日本Men's Health医学会 理事長を務める。『ホルモン力が人生を変える』他著書多数。テレビ番組の出演、監修も多数。


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