【トップドクターが解説】男性不妊治療2〜検査と手術方法、料金を詳しく紹介

2021/02/07 男性不妊

1、永尾光一教授-3

国内の夫婦の5.5組に1組が不妊の検査や治療を受けています。その約半数は男性側にも原因があります。男性不妊治療では、どんなことが行われるのでしょうか。前回の記事(【トップドクターが解説】男性不妊症の原因と最新治療法)に続き、東邦大学医療センター大森病院・リプロダクションセンター(泌尿器科)の永尾光一教授に解説してもらいます。

男性不妊症の診断方法の基本「精液検査」とは

不妊治療で大切なことは、女性が検査を受けるのと並行して男性も検査を受けることです。女性は35歳を過ぎると妊娠する確率が急激に低下しますので、女性が30歳を過ぎる頃までには男性も検査を受けておくべきです。

男性側に原因があるかどうか調べる検査は、「精液検査」「泌尿器科的検査」に分けられます。

精液検査は精液の状態をみる検査で、受診した男性が必ず受ける基本的な検査です。

「精液検査は、精液量、精子濃度、運動率、運動の質、精子の形態などを調べます。検査前の3日間くらいは禁欲して(射精しないでいて)もらい、検査当日に用手法(マスターベーション)で容器の中に射精してもらいます。採取した精液を女性が婦人科に持ち込む検査の仕方もありますが、持ち込むまでの時間や温度で精液の状態が悪くなる場合があります。精液の採取は、医療機関で行うのが望ましいです」(永尾教授)

男性不妊の専門施設や専門外来がある施設には、AVなどを鑑賞しながら精液を採取する専用の個室(採精室)が設けられています。検査を受ける男性はそこに入室して採精するので、一般の病院より抵抗感は少ないはずです。

精液検査だけでは精度が不十分、泌尿器科的検査が不可欠

精液の状態の評価は、WHO(世界保健機関)の下限基準値を目安に行われます。

精液検査でのWHO(世界保健機関)の下限基準値

ただし、精液の状態は、その日の体調によっても変化します。1回の検査結果がすべてではなく、精液の所見が悪ければ再検査する場合もあるそうです。

「国内の男性不妊の診療が不十分なのは、精液検査しか行われないケースがあるからです。女性が通院する女性不妊専門の施設で、パートナーの男性側が受けられるのは精液検査までです。精液の所見が悪くても、男性不妊を専門とする泌尿器科医(生殖医療専門医)がいなければ、泌尿器科的検査が行われないので原因が分かりません。それで体外受精などの生殖補助医療が先行されてしまう傾向があるのです」(永尾教授)

つまり、精液の状態が悪い原因を見つけ、治療につなげるには泌尿器科的検査が不可欠ということです。主に、次のような検査が行われます。

泌尿器科的検査の内容

①「診察・問診」…不妊症に関連する病気の既往の有無、勃起や射精などの状況の確認。外陰部の診察・触診、精巣サイズの測定など。

②「超音波(エコー)検査」…陰のうに超音波を当てて観察する。男性不妊の最大原因である精索静脈瘤の診断に最も有用な検査になる。

③「内分泌検査(採血)」…血液中の男性ホルモンや性腺刺激ホルモンの数値を調べる。

また、必要であれば「染色体・遺伝子検査(採血)」も行われます。これらの検査(1〜2回の受診)で、だいたいの原因が分かるそうです。

精液検査でわかる7種類の「異常」

男性不妊の基本的な検査となる「精液検査」を受けると、下記のようなさまざまな精液の異常が分かります。

精液検査でわかる7種類の「異常」

この所見と泌尿器科的検査を組み合わせながら、男性不妊の原因疾患を見つけていくのです。

まず精液が出ない、極端に少ない場合には「逆行性射精」が疑われます。前立腺と膀胱のつなぎ目を閉じる働きが障害されて、精液が膀胱内に逆流してしまうのです。この場合、オーガズムに達した直後に排尿すると、尿中に精子が含まれるので確認することができます。

最も多くみられる異常は、精子の数が少ない「乏精子(ぼうせいし)症」です。しかし、精液検査の所見は、どれか1つの項目の数値だけが低いというケースは少なく、「精子無力症」「奇形精子症」を伴っていることが多くあります。この3つの異常が同時にあることを総称して「OAT症候群」と呼びます。

3つの異常が同時に存在する「OAT症候群」

永尾光一教授はこう話します。

男性不妊の原因の約8割は精子がうまくつくれない『造精機能障害』ですが、その大半はOAT症候群と考えていいでしょう。そして、特に乏精子症と精子無力症があれば、まず『精索静脈瘤』の有無を調べるべきです。男性不妊の最大の原因疾患で、陰のうの触診や超音波検査で診断できます。この疾患は手術をすることで、多くの人は精液の所見が改善します」

他にも精子無力症の原因には、慢性前立腺炎や性感染症などで精液中に白血球が増える「膿精液症」もあります。白血球の一種である好中球が産生する活性酸素が精子にダメージを与えると考えられています。

また、精子に対する自己抗体によって精子受精能力が障害され、精子無力症の原因になる場合もあります。「抗精子抗体」といって、不妊男性の5〜15%に存在するとされています。

無精子症には「閉塞性」と「非閉塞性」の2つがある

精液中に精子が見当たらない「無精子症」は、大きく分けて「閉塞性」「非閉塞性」の2つに分類されます。

「閉塞性無精子症は無精子症全体の15〜20%を占め、精巣で精子はつくられているが精子の通り道が詰まって出てこない状態(精路通過障害)をいいます。原因は性感染症による精路の癒着、鼠径(そけい)ヘルニアなどの手術の合併症、先天性の精管欠損などです。非閉塞性無精子症は、精巣内で精子がほとんどつくられていない状態(造精機能障害)のことをいいます」(永尾教授)

非閉塞性無精子症ではホルモン検査も実施

精路に閉塞のない非閉塞性では、まず採血による「内分泌(ホルモン)検査」を行います。性腺刺激ホルモンが低値の場合には「低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」が疑われるからです。この疾患は脳の性腺刺激ホルモンの分泌低下によって、男性不妊や性機能障害などの原因になります。

内分泌検査で性腺刺激ホルモンが高値の場合、必要と判断されれば「染色体検査」が行われることもあります。これは「染色体異常」や「Y染色体欠失」の有無を調べる検査になります。

体外受精選択の判断基準は「動いている精子の総数」

ただ、最も多い造精機能障害の約半数は原因不明の「特発性」です。それに女性の年齢が35歳を過ぎると、妊娠する確率が急激に低下します。

男性不妊の治療効果が不十分な場合、人工授精や体外受精・顕微授精といった「婦人科的治療」が必要になりますが、精子の状態がどれくらいのときにその判断がなされるのでしょうか。

永尾光一教授は次のように話します。

「動いている精子の総数(総運動精子数)を目安に婦人科的治療が選択されます。総運動精子数は『精液量×濃度×運動率』の式で求めます。1560万以上の場合、性交で自然妊娠する可能があります。しかし、1年間不妊なら人工授精・体外受精・顕微授精などの婦人科的治療が必要と考えてもらえばいいと思います」

婦人科的治療選択の判断基準

精索静脈瘤は手術で8割が改善

ただし、造精機能障害の原因の約4割を占める「精索静脈瘤」という病気がある場合、手術をすれば約8割の人は精子の状態が改善します。また、男性不妊の治療効果が不十分でも、薬物治療や精索静脈瘤治療が婦人科的治療の効果を高めると考えられています。婦人科的治療(女性側)と泌尿器科的治療(男性側)は並行して行うことが大切です。

たとえ、精液中に精子がない無精子症でもあきらめてはいけません。精子の通り道が閉塞している「閉塞性無精子症」なら、手術で閉塞部分を開通させます。手術をしても精子が出てこない場合も考えられるので、念のため同時に精巣内の精子を採取して凍結保存も行います。

「FSH(卵胞刺激ホルモン)と精巣サイズが正常で染色体異常がない場合、精巣内で精子を作っている可能性が約90%あります」(永尾教授)

精子の通り道に異常のない無精子症で、FSHの数値が低値の場合、「低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」の可能性があります。この病気は「ホルモン補充療法」で精液の改善が期待できます。

精巣を切開して精子を採取する手術も

「無精子症では、精巣を切開して精子を採取する『TESE(精巣内精子再手術)』や手術用顕微鏡を使う『マイクロTESE』を行います。FSH高値である原因不明の非閉塞性無精子症でも約30%の確率で精子を採取できます。これらは日帰り手術が可能で、採取した精子を使って顕微授精します」

射精時にオーガズムがあっても精液が膀胱内に逆流して精液が出ない「逆行性射精」に対しては、まず「三還系抗うつ薬」が多く使われます。それでも無効なら、尿中に含まれる精子を回収したり、TESE(手術)で精子を採取して顕微授精を行います。

このように、男性不妊の治療の選択肢は数多くあることを知っておくべきでしょう。

喫煙、肥満は健康な精子の大敵

男性不妊の治療においては、「生活習慣の改善」も大前提です。生活習慣が精子形成に悪影響を与えている場合があるからです。特に喫煙は、精子数を減らしたり、精子のDNAを損傷します。不妊治療に訪れた喫煙者はまず禁煙を強く指導されます。

肥満も、男女ともに不妊のリスクになります。男性では肥満による精巣温度の上昇や精子のDNA損傷により、精液の状態が悪化します。

精子を作る精巣の造精機能は熱に弱いので、長風呂やサウナを避ける、通気性のいいパンツ(トランクスなど)をはくといったことにも注意が必要です。

脱毛症治療薬、テストステロン補充療法はNG

精子形成や射精を障害する可能性のある薬剤を使用しる場合、不妊治療中は中止するよう指導されます。永尾教授はこう話します。

「男性型脱毛症の治療薬『フィナステリドやデュタステリド』(内服薬)はジヒドロテストステロンの男性ホルモン作用を抑える働きがあるので、使っていれば不妊治療中だけ中止してもらいます。市販の塗り薬である『ミノキシジル』は、影響はないので使えます。また、男性不妊の人は、男性ホルモン(テストステロン)の補充療法(注射)をしてはいけません」

男性ホルモンを補充すると「元気な精子が作られる」というイメージがありますが、男性不妊では逆効果になります。テストステロンを直接投与すると、脳下垂体が「これ以上は精巣を刺激する必要はない」と判断してしまい、精巣を刺激するホルモン(FSHとLH)の分泌が低下し、精子や自身の男性ホルモンを作る働きが抑制されてしまうからです。

精液の状態を改善する薬とは

では、男性不妊患者の約30%前後にみられると推測される原因不明(特発性)の「乏精子症・精子無力症」に対して、精液の状態を改善させる何かいい薬剤はあるのでしょうか。

「漢方薬やビタミン剤、血流改善薬などが処方されることがあると思います。しかし、どれも精液所見や妊娠率を改善させる明確なエビデンスはなく、あくまで医師の経験的治療で、効果はあまり期待できません。男性不妊の薬物療法で大きな効果が期待できるのは、『低ゴナドトロピン性性腺機能低下症』という疾患に対して行われるホルモン補充療法くらいです」(永尾教授)

それでも、少しでも造精機能をサポートする薬を望む患者は少なくありません。その場合、永尾教授は抗酸化作用のある「コエンザエムQ10」や精子の生成や性腺機能に必要な「亜鉛」のサプリメントを勧めているそうです。

あまり効果が期待できない薬物療法を長く続けると、女性が妊娠できる期間を減らしてしまうことになります。半年くらい続けて精液の状態が改善しなければ、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療を検討すべきと永尾教授は言います。

一方、性機能障害は保存的治療が有効。EDの場合はED治療薬で約7割が改善します。マスターベーションでは射精できるのに腟内で射精できない腟内射精障害では、手で陰茎を刺激し、射精直前に腟に挿入する方法や、カップに精液を取って針なしの注射器で腟に注入する方法などがあるそうです。

男性不妊の4割にみられる精索静脈瘤とは

男性不妊の原因が明らかな疾患の中で最も多いのが「精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)」です。精巣やその上の精索部に静脈瘤(静脈が拡張したコブ)ができ、腎臓の静脈から血液の逆流が生じることで、熱に弱い精巣の温度が上昇し、精巣機能が低下する症状です。

一般男性でも15%、不妊男性の40%以上にみられ、自覚症状はない場合が多いのですが、悪化すると静脈瘤のできた側(約90%は左側)の陰のうが腫れたり、デコボコしたりします。精液の状態の悪化、精巣萎縮、精子のDNA損傷、男性ホルモンの低下などを引き起こします。

精液検査で「乏精子症・精子無力症」が分かったら、最初に疑い男性不妊を専門とする泌尿器科医(生殖医療専門医)に診察してもらった方がいいでしょう。

「精索静脈瘤は進行性の病気なので、2人目不妊の78%の原因になっています。しかし、手術をすれば約8割の人は精液所見が改善するので、自然妊娠も可能です。また、最終的に人工授精・体外受精・顕微授精などの婦人科的治療を行うにしても、精索静脈瘤を治しておいたほうが、その成功率は高まります」(永尾教授)

精索静脈瘤の手術方法

精索静脈瘤手術は、2018年4月から手術用顕微鏡を使った「顕微鏡下手術」が保険適用になっています。いくつかある術式の中には腹腔鏡手術などもありますが、一般的には「顕微鏡下高位結紮(けっさつ)術」と「顕微鏡下低位結紮術」が行われています。

手術内容は、腎臓と精巣の間の精巣静脈を糸でしばって血流を遮断(結紮)します。

「顕微鏡下高位結紮術」は、ヘソ脇あたりの腹部を4〜5センチ切開し、腎臓に近い方の静脈をしばる方法です。

「顕微鏡下低位結紮術」は、陰のうの付け根あたりを2〜3センチ切開して、精巣に近い方で静脈をしばります。手術時間はどちらも1時間ほどです。

ただ、顕微鏡下高位結紮術は全身麻酔で3泊4日ほどの入院が必要です。顕微鏡下低位結紮術は局所麻酔なら日帰りも可能ですが、自由診療で行っている施設が多数です。何が違うのでしょうか。

難度の高い顕微鏡下低位結紮術

「顕微鏡下低位結紮術は非常に難しいので、顕微鏡手術に熟練した医師でなければ、理想的な手術はまずできません。理想的な手術とは、大事な動脈・リンパ管・神経をすべて温存し、逆流静脈をすべてしばる、別の逆流ルートである外精静脈もしばる方法です。この理想的な手術が難しいため、術者によって再発や合併症が起こる確率にばらつきが多いのです。

顕微鏡下高位結紮術はしばる静脈の数が少なく、リンパ管温存などの手技が簡単です。技術レベルが相当高い医師が担当するなら顕微鏡下低位結紮術でもいいですが、保険診療で平均的な治療成績を望むなら顕微鏡下高位結紮術の方が無難です」

保険診療の顕微鏡下高位結紮術

顕微鏡下高位結紮術は保険診療なので、手術費用は3割自己負担の14万〜17万円くらいです。手術前検査も保険診療です。保険診療で低位結紮術を行っている場合は、手術費用は同額です。自由診療で日帰りの顕微鏡下低位結紮術を行う場合は、施設によって異なりますが、25万〜40万円程度です。手術前検査や麻酔費用などは別途必要です。

得意とする術式は施設で異なります。どの術式を選ぶかは泌尿器科医に詳しく説明してもらいましょう。


(取材・構成 新井貴)



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【永尾光一(ながお・こういち)教授】 1960年生まれ。昭和大学で形成外科学を8年間専攻。その後、東邦大学で泌尿器科学を専攻。両方の診療部長を経験し、2つの基本領域専門医を取得。2007年、東邦大学医学部准教授(泌尿器科学講座)、2009年から東邦大学医療センター大森病院・リプロダクションセンター(泌尿器科)教授。日本性機能学会理事長。日本生殖医学会副理事長。日本メンズヘルス医学会理事。NPO法人男性不妊ドクターズ理事長など。


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