“万能”の栄養素、ビタミンDは動脈硬化、心臓病、脳卒中にも効果を発揮

2021/03/29 免疫力向上

男の底力2021年3月29日

これまで、がん、糖尿病、そして新型コロナウイルス感染症などの予防にビタミンDが有効であることを紹介してきた。今回は心臓病や脳卒中など、「動脈硬化」に起因する重大疾患に対してもビタミンDが重要な働きを示すことを、東京都渋谷区にある満尾クリニック院長の満尾正医師に解説してもらう。


日本では死亡原因疾患の第1位はがんです。しかし、世界的に見ると死因の首位は心臓病で、年間約1800万人が心臓病で命を落としています。

心臓病は「血管」の病気です。動脈硬化が進んだ末に行き着くのが、心筋梗塞や狭心症などの心臓病です。

動脈硬化の終末像にはもう一つ、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの「脳卒中」もあります。日本では、心臓病と脳卒中の死亡割合を足すと、がんとほぼ同じ程度の数字になります。つまり、動脈硬化の予防や進行の抑制は、「がん以外で死ぬ割合」を大幅に抑制することにつながるのです。

近年の研究により、動脈硬化に由来する病気を予防するうえで、ビタミンDは重要な働きを示していることが明らかになってきました。

60歳以上の高齢者137人を対象とした研究では、ビタミンDの血中濃度が「30未満」(単位は「ナノグラム/ミリリットル」。以下同)のグループが心不全になるリスクは「30以上」のグループの実に約12倍という高率である、という結果が出たのです。

一方、脳梗塞の初期段階で見られるラクナ梗塞(脳の末梢血管が詰まる病態)は、血中ビタミンD濃度が下がるほどリスクが高くなる、という研究結果も出ています。

このように、動脈硬化はビタミンDと非常に密接な関係を持っており、ビタミンDを積極的に摂取することが心臓病や脳卒中を未然に防ぐことにつながるのです。

その仕組みを解明する研究もあります。

動脈の壁は、外側から外膜、中膜、内膜の3層構造になっていて、中膜と内膜を合わせた厚さを「内中膜複合体厚(IМТ)」と呼びます。IМТは動脈硬化の進行度を判断する指標の1つで、頸動脈のIМТが1・1ミリを超えると動脈硬化と診断されます。

117人の被験者を血中ビタミンD濃度が30以上の「適正群」、20〜29の「不足群」、20未満の「欠乏群」に分けて胸部大動脈のIМТとの関連性を調べた研究によると、ビタミンDの血中濃度が低いグループほどIМТ値が高い、つまり血管壁が厚くなっていることが分かりました。

しかもこの研究では、血中ビタミンD濃度が低い群ほど、体内で炎症が起きているときに現れるCRPというタンパク質の値も高くなることが示されています。つまり、ビタミンDが少ない人の体内では、「血管壁の肥厚」と「炎症」という動脈硬化を促進する環境が複合的にそろっていることが分かったのです。

血管の病気の予防策というと、「コレステロールを下げればいい」と考えている人が少なくありません。しかし、コレステロールには細胞を作ったり、ビタミンDの原料になるなど重要な役割があります。むやみにコレステロールを下げるのは危険です。

それよりも日光浴やサプリメントでビタミンDを十分に補充し、動脈硬化を予防するほうが、よほど科学的であり、合理的な対策と言えるのです。

(構成・中井広二)


【満尾正医師】 1982年、北海道大学医学部卒業。杏林大学救急医学講師、米ハーバード大学外科栄養代謝教室研究員、救急振興財団教授を経て、2002年、キレーション治療を中心とした抗加齢医療専門クリニック「満尾クリニック」を開業し院長。日本抗加齢医学会認定医。米国抗加齢医学会認定医。医学博士。最新刊に「医者が教える『最高の栄養』」(KADOKAWA刊)。

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