糖尿病の予防と治療にビタミンDが有効なワケ

2021/03/25 免疫力向上

男の底力2021年3月25日

糖尿病の国内患者数はおよそ330万人。予備群を入れれば2000万人を超えるともいわれる。この脅威に対し、ビタミンDは大きな役割を担っている。東京都渋谷区にある満尾クリニック院長の満尾正医師が、そのメカニズムを解説する。


前回のこの欄で、大腸がん予防を考えるうえで導き出されたビタミンDの至適値(理想的な血中濃度)は「40ナノグラム/ミリリットル」と述べました(以下、単位は同じ)。私のクリニックでは、大腸がんだけでなく、あらゆる生活習慣病対策の至適値として、「40」を推奨しています。

ただ、この至適値は対象とする疾患によっては異なる可能性もあります。そのひとつが糖尿病です。

私は、糖尿病予防や血糖値の安定を図る目的であれば、ビタミンDの至適値は「50」まで上げるべきではないかと考えています。

糖尿病にはⅠ型とⅡ型の2種類があります。人が何かを食べると、糖質がブドウ糖に分解されて血液に流れ込みます。血中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高い状態を高血糖とよび、この状態が持続するのが糖尿病です。

普通は、高血糖になると膵臓からインスリンというホルモンが分泌されて血糖値は下がるのですが、インスリンが分泌されない(Ⅰ型)、分泌されても血糖値が反応しない(Ⅱ型)状態を糖尿病と呼ぶのです。

一般的に生活習慣の乱れから起きる糖尿病はⅡ型のほうで、糖尿病全体のほとんどをⅡ型が占めます。そして、このⅡ型糖尿病が、ビタミンDと関係がありそうなのです。

1997年から12年間かけて行われた興味深い研究があります。平均年齢74歳の903人を対象に、血中ビタミンD濃度と糖尿病発症率の関係を調べた研究です。

この研究ではビタミンDの血中濃度が「30以上」と「50以上」の2群に分けて、それぞれのグループからどの程度の確率で糖尿病患者が出るかを検証しました。

その結果、血中ビタミンD濃度が「30以上」のグループでは3人に1人の割合で、「50以上」のグループでは5人に1人の割合で、それぞれ糖尿病の人が出たのです。

これだけでもビタミンDの血中濃度が高いほうが糖尿病になりにくい傾向が見て取れますが、「50以上」のグループを「30未満」のグループと比較すると、糖尿病発症率はじつに5倍もの開きがあった、というのです。

以前から、糖尿病予防としてビタミンDの役割を指摘する声はありましたが、そこで推奨される至適値は「30以上」でした。しかし、この研究によって、少なくとも糖尿病予防を考えるうえでは「30」よりも「50」のほうが効果は大きいことが示されたのです。

これとは別に、治療歴が10年以上の糖尿病患者55人を対象に、ビタミンDを筋肉注射することで、その後の血糖値の推移に違いがあるかを調べた研究もあります。

こちらは「予防」ではなく「治療」に踏み込んだ研究ですが、結果を見ると、ビタミンDを投与した群は投与しなかった群に比べてヘモグロビンA1c(測定前1−2カ月の平均血糖値)の上昇率が有意差をもって低い、というものでした。

これらを総合的に考えると、糖尿病は「予防」と「治療」の両面において、ビタミンDを意識的に摂取することが重要との考えに行きつくのです。

(構成・中井広二)


【満尾正医師】 1982年、北海道大学医学部卒業。杏林大学救急医学講師、米ハーバード大学外科栄養代謝教室研究員、救急振興財団教授を経て、2002年、キレーション治療を中心とした抗加齢医療専門クリニック「満尾クリニック」を開業し院長。日本抗加齢医学会認定医。米国抗加齢医学会認定医。医学博士。最新刊に「医者が教える『最高の栄養』」(KADOKAWA刊)。

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