がん対策とビタミンDの関係、摂取は全身の対策に有効か
医学が進化した現代においてなお、がんは人類共通の最大の脅威だ。その対策には「栄養」が大きく関わっている。ビタミンDを用いたアンチエイジング医療の第一人者で、東京都渋谷区にある満尾クリニック院長の満尾正医師は、「栄養学とがんの関係についての正しい知識を持つことから、がん対策を始めるべきだ」と警鐘を鳴らす。キーワードは「体質づくり」だ。
日本人に多いがんといえば、肺がん、大腸がん、男性なら前立腺がん、女性なら乳がん。
このように、がんという病気は「臓器ごと」に分類されて語られることが多く、手術をする外科も臓器ごとに分かれています。
しかし栄養学の視点から、がんという病気を見るときは、あまり臓器に捉われることはありません。栄養は体のあらゆる臓器と関連しているので、特定の臓器を対象にすることにはあまり意味がないのです。
たとえば、「前立腺に特異的に作用するサプリメント」などという考え方はなじみません。もし、「これを飲めば△△がんが治る」とか「××がんの予防に効果がある」というサプリや栄養食品があったら疑ってかかるべきだし、そもそもそうした考え方は危険です。
がんは全身病です。もし前立腺がんになったのであれば、その人の全身ががんになるリスクを持っていて、たまたま前立腺という臓器に発現したと考えるのが栄養学の見方なのです。
その上でビタミンDの役割を考えると、この栄養素は「免疫力の調整」という点でがん予防に役立つことは確かです。つまり、「△△がんにならない」という特定の臓器のがんを防ぐのではなく、「がんになりにくい体質」にするために役立つ栄養素なのです。
がん対策は、特定の臓器を対象に考えるのではなく、全身を俯瞰して考えるべきなのです。崖の下に家を建てるような「危険な状況」を避ける考え方が、栄養学の根本だと理解すべきでしょう。
不幸にしてがん細胞が見つかってしまった場合も、手術などの外科的な治療ではその臓器を対象としますが、栄養学的にはやはり「全身」を対象として考えます。
がんになったということは、その人の生活のベクトルが「がんの方向」を向いていたことを意味します。それを根本的に見直し、どうすれば修正できるのか、を考えるのです。
このように栄養学は人間の体をマクロに捉えて考える学問です。それが理解できれば、前述の「△△がんに効く」という表現があり得ないことも理解できるでしょう。
一方で、がんが臓器にできる以上、研究は臓器別に行われます。私の専門とするビタミンDのがんに対する有効性の評価も臓器別に行われています。それらの研究から、ビタミンDの摂取量とがんの関係性が明らかになっています。
そこで次回は、さまざまな研究でビタミンDの摂取量との関係が見えてきた大腸がん、乳がん、肝がんなどについて検証します。
(構成・中井広二)
【満尾正医師】 1982年、北海道大学医学部卒業。杏林大学救急医学講師、米ハーバード大学外科栄養代謝教室研究員、救急振興財団教授を経て、2002年、キレーション治療を中心とした抗加齢医療専門クリニック「満尾クリニック」を開業し院長。日本抗加齢医学会認定医。米国抗加齢医学会認定医。医学博士。最新刊に「医者が教える『最高の栄養』」(KADOKAWA刊)。
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