第一人者が語る「救急医療とアンチエイジング医療の共通点」

2021/01/25 免疫力向上

男の底力2021年1月25日

「飽食の時代」と言われて久しい日本だが、そのわりには摂取できている栄養素の偏りが指摘されている。そこで今回から、日本におけるアンチエイジング医療の第一人者である「満尾クリニック」の満尾正医師に、メンズヘルスと栄養管理、中でも「ビタミンD」の重要性について解説してもらう。


私が東京の広尾にアンチエイジングの専門クリニックとして「満尾クリニック」を開設したのは2002年のこと。そもそも私は初めからアンチエイジングを専門にしていたわけではありません。医師としてデビューした直後の私は、救急医療の世界に身を投じ、忙しい日々を送っていたのです。

救急医というと、搬送されてきた患者に最初の処置をする最前線の医師、というイメージを持たれます。バイタルを確認しながら心臓マッサージをして…という慌ただしい光景を思い浮かべることでしょう。

もちろんそれは事実です。ただ、実際の救急医の仕事はそこだけではありません。最初の処置で命をつないだ患者を集中治療室で管理する―という仕事もあるのです。その期間は患者の状態によって異なります。私の受け持った中で一番長かったケースは重症熱傷の患者で、半年間に及びました。

これは稀な例ですが、それでも2〜3週間は患者の管理で付きっきりになります。つまり、一般的に認知されている救急医療の姿は、その全容の「入り口」に過ぎないのです。

救急医療の中核をなす集中医療は、見ようによってはアンチエイジングとはまるでかけ離れた、対極にある医療と感じるかもしれません。でも実は、この2つの医療は密接な関係があるのです。

意識のない、あるいは自分で食べることのできない患者の場合、点滴か経管栄養が命綱です。尿の窒素の量からタンパクのバランスを見て、適正な量の栄養補給をしていきます。つまり、アンチエイジングの柱となる栄養管理学は、救急医にとって重要なサブスペシャリティの一つなのです。

そこで私は1994年にハーバード大学に留学する際、「外科栄養代謝」という分野を専攻しました。栄養管理学の本場で、世界最高水準の研究に参加する機会を得ることができたのです。

ラッキーだったのは、私の留学した期間が、世界の栄養管理学のピークの最終盤だった、ということ。つまり、この時期までで研究結果が出尽くしてしまったのです。言い換えれば、栄養管理学が完成する時期に、その場にいられたことは、研究者としてとても幸運だったと思っています。

帰国した私は、自治省(当時)傘下の救急振興財団が運営する救命救急士養成機関の教官を経て、2002年にアンチエイジング専門クリニックを開設しますが、その3年後に大きな転機が訪れます。世界で最も著名な栄養学者、マイケル・ホーリック博士の講演をアメリカで聞く機会を得たのです。

そこで私は初めて、ビタミンDの重要性を知り、衝撃を受けました。その衝撃は2年後、世界中の研究者が受けることになります。2007年に「ニューイングランドジャーナル・ジャーナル・オブ・メディシン」という権威ある雑誌に、ホーリック博士の「現代人はビタミンD不足である」という論文が載ったのです。

これがきっかけで、世界的にビタミンDに注目が集まりました。それは私のライフワークである「アンチエイジングとビタミンD」の研究が、本格的に始まった瞬間でもありました。

(構成・中井広二)


【満尾正医師】 1982年、北海道大学医学部卒業。杏林大学救急医学講師、米・ハーバード大学外科栄養代謝教室研究員、救急振興財団教授を経て、2002年、キレーション治療を中心とした抗加齢医療専門クリニック「満尾クリニック」を東京・広尾に開業し院長。日本抗加齢医学会認定医、米国抗加齢医学会認定医。医学博士。

満尾正(満尾クリニック)

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