糖質制限できて抗酸化能力も上げる「魔法の牛肉」
東日本大震災をきっかけに、放射線対策として「抗酸化力向上」の必要性を感じた日本機能性医学研究所所長の斎藤糧三医師。その具体策として食肉、中でも「牛肉」を活用することを思いついた。ただ、そこに使われるのは、ただの牛肉ではないという。
糖質を抑えることで増える「ケトン体」とは
「糖質制限ダイエット」は、炭水化物の摂取量を減らすことでインスリンの分泌量を抑え、肥満予防、体重減少につなげる取り組みです。糖尿病患者の食事指導から生まれたものですが、近年は結果が出やすいダイエット法として人気です。
ただ、私はダイエットよりも、糖質を抑えることで体内に増える「ケトン体」という物質に目を付けました。
ケトン体は、ブドウ糖が枯渇した時や、ブドウ糖をエネルギーに変えられなくなった時に、代わりのエネルギー源として中性脂肪から変換された脂肪酸から合成される物質です。糖尿病の悪化時に増えるなど、長らく悪者扱いされてきました。
抗酸化能力を高めるケトン体
しかし近年、脳機能の向上に関与するなど、さまざまな機能性が注目される物質となりました。私はある論文からケトン体が抗酸化能力を高める働きを持つことを知りました。つまり、糖質制限→長寿遺伝子活性化→ケトン体産生→抗酸化力向上、という流れを作り出せるのです。
しかし、闇雲に糖質制限をするのは危険です。特に、タンパク質が不足した状態で糖質制限を行うと、血糖を維持するために体内のタンパク質が消費されるため、筋肉量が減ってしまうのです。中高年で筋肉量が減ると、サルコペニア(加齢に伴う骨格筋量の減少)やフレイル(高齢者の筋力・活動低下)を招き、最悪の場合「寝たきり」に近づくことにもなります。
効果的な糖質制限に適した「牧草牛肉」
これを防ぎつつ、効果的な糖質制限を行うのに適した食事を探した私は、ある食材に行きつきました。「牛肉」です。
牛肉は本来、糖質制限の際の食品として最適です。中でもとびきり優れた牛肉に巡り会ったのです。その名は「牧草牛」。
アジやサバなどの青魚が、血液サラサラ成分であるEPAやDHAなど「オメガ3脂肪酸」という成分を豊富に含んでいることは知られています。しかし、青魚はオメガ3を体内で合成することはできません。海面付近の植物性プランクトンを食べ、食物連鎖によってオメガ3を貯えているのです。
牧草由来のオメガ3が豊富
牛も同様で、食べたエサで「脂肪酸バランス」がきまります。日本では、霜降りになるようにトウモロコシや麦などの穀物飼料をあたえられ育ちます。すると、肉質は柔らかいのですが、肉の脂肪酸バランスが、オメガ6が多くてオメガ3が少ない穀物に似てしまい、オメガ3が足りません。
そこで注目したのが、牧草を食べて育った「牧草牛」でした。放牧され、牧草を食べて育った牛は、牧草由来のオメガ3が豊富。また牛本来の生活に近く「エシカル」(倫理的)という観点からも注目されています。
日本では九州や北海道のごく一部で試験的に飼育されています。一方でニュージーランド産牛肉は99%が牧草牛です。
こうして、国内外の牧草牛を使った健康的な糖質制限食を「ケトジェニックダイエット」として提唱するようになりました。
(構成・中井広二)
【齋藤糧三医師】
1973年生まれ。98年、日本医科大学卒業。アメリカ機能性医学学会認定医。2008年、日本機能性医学研究所を設立。栄養療法・ホルモン療法に定評がある。
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