実は「毒のようなもの」のカテキンが体に効果的なワケ
機能性食品や機能性成分というと、それ自体が体にいいもの―というイメージがある。しかし、よく調べてみると、単なる栄養成分ではなく、生体を鍛えることで健康に近づける、という作用の成分もある。今回はそんな「訓練系機能性成分」の代表格、「カテキン」について、同志社大学生命医科学部教授の市川寛医師(消化器内科医)が解説する。
カテキンは「毒のようなもの」
皆さんは「カテキン」という機能性成分の名前は聞いたことがあると思います。緑茶に含まれる天然有機化合物で、いわゆる「ポリフェノール」の一種。活性酸素を抑える抗酸化能がきわめて高いことで知られています。
しかしこのカテキン、お茶として飲んでも、腸管からはほとんど吸収されません。吸収されないのに抗酸化機能を示すのはなぜなのでしょう。
実は、人間をはじめとする多くの動物にとって、カテキンは「毒のようなもの」なのです。
ここで間違えないでほしいのは、「毒」ではなく、あくまで「毒のようなもの」という点です。本当に毒ならば体が受け付けません。
では、なぜ毒性を持つ成分を摂取して抗酸化作用、つまり健康に近づくのでしょうか。
カテキンを摂取するたびに抗酸化機能が強化
カテキンが体内に入ってくると、それを受けて腸管が「あまり好ましくない成分が侵入してきた」というシグナルを出します。そのシグナルに生体が反応して、防御態勢を強化する。結果として体内の抗酸化機能が強化されていく―という仕組みです。
まるで細菌やウイルスと闘うことで強くなっていく免疫システムのようですが、これと似たことが、カテキンを摂取することで、もっと言えばお茶を飲むたびに体の中では起きていたのです。
こうしたことは自然界ではよくあることです。劣悪な環境で育ったトマトは甘くなるとか、水捌けのよすぎる土地で育ったブドウはいいワインになる、という話はよく聞きます。ある程度のストレスをかけることで品質は高まるものですが、人間の体もそれと似たところがあるのです。
宇治茶にカテキンが多いワケ
ちなみに同じ日本茶でも、京都の宇治茶は、とりわけカテキンが豊富とされます。これは他の生産地よりもお茶の葉が浴びる紫外線の量が多いことによります。
人間にとって紫外線は、それを浴びることでビタミンDが合成できるなど、不可欠な光線ですが、長く浴び続けると皮膚や目にダメージを及ぼす厄介な存在でもあります。
お茶にとっても同様で、紫外線に長く当たることはお茶自身にとっては決して好ましいことではないのです。
お茶を飲むことは体の「強化訓練」
そこでお茶は、自身の生体内でカテキンという「紫外線から身を守る成分」を作り出すことで、自身の保護に乗り出しました。浴びる紫外線の量が多い宇治茶は、それだけ多くのカテキンを作り出さなければなりません。つまり宇治茶のカテキン量が多いのは、自分自身を守るためのものであり、それを煎じて飲む人間の健康を考えてのことではないのです。
ビタミンCやEなどは腸管から吸収されて機能性を示しますが、中にはカテキンのように、生体に刺激を与えて、その反応によって体を鍛えてくれる成分もある、ということは知識として持っておくといいでしょう。
仕事の合間に、お茶を飲んで一息つく―。一見「休息」に見えるこの習慣は、生体にとっては「訓練」であり「強化」の時間なのです。
(構成・中井広二)
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