【生涯現役本】和田秀樹著『「人生100年」老年格差』(詩想社)

「人生100年」老年格差

著者は精神科医。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている人物。

多くの高齢者を診てきた立場から人生100年時代とは何か、を考えるのが本書のテーマ。

まず、まえがきで90歳になると認知症は6割、95歳になると8割に及ぶという現実を提示。

70歳でフルマラソンを走る人もいれば、寝たきりの人もいる。知的機能、体力、経済力、社会的地位に著しい格差が出るのが高齢者だという。

第1章は、人生100年時代とは「健康格差社会」の到来だ。

医療の現場を見てきた感覚として30年前に比べ現在の60代、70代は元気で若々しいという。

この若返りは、主に戦後、タンパク質の摂取量が増えたことに起因する。ただし、進んできた若返りも1960年代生まれで頭打ちになる。

栄養改善はピークであり、今後も若返りが進み80代でも若々しく働く時代は幻想だと。

100歳まで生きるのは老人が若返るからではなく、「死ななくなるから」だと断言。

医学は進歩しているが脳の老化を止めることは現在の医学では不可能。

つまり、100年生きる時代とは「早死にするか、認知症になるかの時代」。

では、認知症が劇的に増える時代にどう対応するのか。AIによるサポート、介護ロボットの導入などを紹介。また今後の社会変化、老人の立場、病院の変化を推測。

老化を遅らせるためにいちばん大事なのは“意欲を減退させないこと”。それに必要なのが男性ホルモンだという。

続く章では、人生100年時代の現実、問題点を鋭く論じている。

第2章は、いまから始める! 人生100年時代に備えた生き方。

健康診断信仰を捨てる、会社に見切りをつける、偉い人の言うことを聞かない、無駄な摂生などやめて生きる、など世間の常識に反する独自の提案、意見が小気味いい。

著者は医師でありながら「医師の言うことをあまり信用しない」という項目まである。

第3章は、「人生100年ブーム」にだまされてはいけない。

人生100年時代の提案は、社会保障費カットの口実としての一面、生産性で人をはかる時代の怖さ、生涯学習の怪しさなど、懐疑的(現実的ともいえる)視線で展開。

第4章は、100歳まで生き抜くための健康戦略。

老化を防ぐ生活として前頭葉、男性ホルモンを活性化させる方法を紹介。

ラストは幸せな老いとは何か、そして老親を持つ子の対策。

本書を読み、人は誰でも最後はボケる。そう知っておくだけでもある種の覚悟ができる。

老人がお金を使う社会にするために相続税100%など、なかには極論とも感じる項目もあるが、実際の高齢者医療の現場を知る医師の主張には重みと鋭さがある。

男性ホルモンの材料となるのは、コレステロールであり積極的に肉食を取り入れることが重要。健康管理に気を使っても遺伝には勝てない。ゆえに、無駄な摂生など必要なし、という意見にしびれた。

リアルな人生100年時代を知りたい、考えたい人には刺激になる一冊。


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