【ABS流令和バブルのすすめ】バブルを象徴する「おいしい生活。」に秘められたものとは
この連載では、華やかなバブル時代を体験した世代を「アクティブ・バブル・シニア(ABS)」と呼んでいます。
このABS世代が第二の人生を歩き始めることで、新しい経済が生まれるのではないか―というのが連載の背景にある仮説でもあります。
そこでます、今回はABS世代が経験した昭和の終わりから平成にかけてのバブル時代を振り返ってみたいと思います。
バブルは、1986年頃から5年ほどの間、日本の不動産投資が加熱し膨張した経済状況を指すものだと定義されています。しかし、東京都心に住み雑誌『POPEYE(ポパイ)』の編集部などに出入りしていた私(サトウリッチマン)は、もう少し早い80年代初頭に、すでにその芽生えを感じていました。
例えば「おいしい生活。」という、当時としてはなんともアンニュイな広告やDCブランドブーム、ライフスタイルマガジンやファッション雑誌の創刊ラッシュ、パルコなどが発信し始めた、まるでファッションショーのようなイメージと不思議なコピーだけの一連のポスターやCMなど、あちらこちらに現れる鮮やかなフラッシュのような現象がその起点だったのではないかと思っています。
「おいしい生活。」は、82年から83年の西武百貨店の広告に使われたコピーです。CMやポスターのイメージキャラクターに当時のインテリのアイコンでもあったウディ・アレンを起用。従来の広告のような“売る気”は感じられない、意味不明な広告でした。
いま冷静に見つめ直すと、糸井重里さんが書いたコピーは「勤勉で堅実で質素に生きてきた日本人」に対して「そんなに辛抱していないで、もっと楽しくリッチに生きようよ」というアンチテーゼだったのかもしれません。
そのコピーに呼応するように、人々は消費を貪り、土地投機ブームが沸き上がります。バブルによる土地高騰は、山手線の内側の土地でアメリカ全土が買えるともいわれました。実際、日本の不動産会社はアメリカの経済を象徴するロックフェラービルを始めとするマンハッタンのビルや土地をこぞって買いまくりました。
そして、「24時間戦えますか。」や「くうねるあそぶ。」などの広告が街を賑わせる頃には、地上げで渋谷駅前の小さな焼鳥屋を売った家族が外車5台と豪邸を河口湖に買い、営業マンが1回数百万円もの接待費用を自慢し合い、終電前後の六本木では1万円札の束をハンカチのように振ってタクシーを停めた、などの現象が起きました。いまや都市伝説のように語り継がれていますが、ABS世代はたしかにその“現場”にいました。
そのバブルが弾け、日本経済の暗黒の30年が始まったのはご存じのとおりです。ならば、あのバブル経済は本当に悪だったのか? デフレで収入が増えないまま世界に取り残されていく日本はこのままでいいのか?
コロナ後に令和バブルがくる、とも言われる今こそ、「おいしい生活。」のコピーに秘められた意味を模索するべきではないでしょうか。
■ABS世代 昭和30(1955)年から43(68)年生まれの、若者時代にバブルを謳歌した世代。
【筆者:サトウリッチマン】 1958年生まれ。クリエイティブディレクター。イラストレーターとしてデビューし、広告や空間のデザインやマガジンデザイン、海外のスポーツブランドや車メーカーなど数多くのWebデザインを手掛けた。
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